生地と乾燥

読むことは人を豊かにし、話し合うことは人を機敏にし、書くことは人を確かにする。

20130218読書記録 -小説の作法

 読むのにとっても苦労した。読み慣れない言葉と、文章構造で、久々にウンウン言いながら読み終えた。最後の「10 方法としての小説」までたどり着けば、これまでの努力が報われるように、説明されてきたことごとが収束して、目的地に到達する。ただ、また読み返す必要があると感じた。以下、各項で気になった言葉。

 

1 文学表現の言葉と「異化」

無意識の生活の中から、意識して「異化」して取り出す。芸術の手法は、ものを自動化の状態から引き出す異化の手法である。芸術においては知覚の過程そのものが目的、芸術は、ものが作られる過程を体験する方法。

  • 小説は人間をその全体にわたって活性化させるための、言葉による仕掛けである。
  • 想像力、構想、文体についての考え方、その用語。
  • 構造的な言葉=文学表現の言葉、意味に加えて音やリズム、歴史への共鳴または不協和音を含む。
  • 一時代の言語活動の大きな母体を拡大、活性化する。受け手との共同作業。
  • 文学は、人間とは何か、われわれの同時代とはなにかを把握し表現する。
  • 異領域からの刺激、異領域への刺激。
  • 方法的指向の衰弱と、その衰弱を自己肯定した上での居直り。

2 構想の様ざまなレヴェル

  • 構想という用語は、基本的な語の選択、自己否定的な手つづきによるその発展という一連の過程のみを指すのではなく、イメージの仕掛け、文体の仕組み、ひとつの作品、ジャンル全体、すべてのレベルで考えること。そのことで新しい自分へ向けての方法的な手続きが与えられる。

3 書き手にとっての文体

  • 狭山事件の脅迫状。「文は人なり。」
  • 文体とは、すべてのテクストが、言語のうちに含まれるいくつかの自由に使える可能性の中から行うべき選択。言語の中にある構造的特性。
  • 文体は言語の中にあって、使用者の心のなかにあるのではない。言語と人間のダイナミックな出会いが文体を生む。
4 活性化される想像力
  • 真の小説とは、想像力の活性を通じて、われわれに意識と肉体ぐるみ、あるいは精神と情動ぐるみ、積極的に参加させるものである。
  • 想像力とは、知覚によって提供されたイメージを歪形する能力であり、基本的イメージからわれわれを解放し、イメージを変える能力。

5 読み手とイメージの分節化

  • イメージを意識的に分節化すること、その上に立って、そのイメージのブロックのいちいちを構成することによる小説の組み立て。
  • 読み手が文学の想像に能動的に参加しているのだという実感を確実な経験とする読み方として、分節化されたイメージをブロックごとに把握する読みとりをいう。

6 個と全体、トリックスター

  • 表現とは、本来を人間を全体におもむかしめる人間の仕業。
  • 視点を乗り越える視点、さらにそれを乗り越える視点、その仕組みによる重層化・多様化。全体に至る。
 7 パロディとその展開
  • パロディ化を不断に続けることで小説という文学表現が、人間的諸要素を活性化させる力を更新する。
  • 日常生活の動機付け⇔手法の露呈化
8 周縁へ、周縁から
  • 全体的な表現は、周縁の側から、構造的劣性の側からでなくてはなしとげられない。
  • メキシコ人は、ある現実についてそれを真に知ろうとするが、アメリカ人はそれを使うことを考える。
  • 真に周縁性に立つ日本人のモデルを作り出し、改めてそのモデルにそくして考え進めることは、世界の全体に対して、日本人に新しい見方を可能にする。
9 グロテスクリアリズムのイメージシステム
  • 異質のものを導入してはダイナミズムのしくみを作り出す。
  • 幼児神の要素としての4つの条件、遺棄、無敵、両性具有性、初めと終わり。
  • グロテスクリアリズムのイメージシステムは、死と再生など多義性、両面価値性をもつ。
10 方法としての小説
  • 言葉の前、草木言語(ことと)ひし時
  • 反・人間的の声が響いているところへ、声を割り込ませて自分の領域へ言葉をあたえ、名付けたものをぶんどってくる。そうして恐怖から平安へと進みえた。新しい不安へと追いつめもした。
  • インディオは言語について罪の意識がある。言葉が人間と自然を切り離した。
  • 現代のわれわれは他人の言葉に浸食される。いかにして個としての自分の言葉を切り離すか。それが言葉の「異化」。
  • 歴史的に対象化されるには作品、作家に加え、読者が必要。
  • 文学表現の言葉は、現にある世界のモデルにとどまらず、作り出されるべき世界のモデルを試みることができる。
どう書くか、何を書くか
  • 「新しい小説のために」、「文学再入門」で平易に語り直されている。